あなたは仕事で何かを決断するときに、どうしていますか?
問題を検討し評価するためのツールやフォーマットがいくつかありますが、その中でも極めてシンプル、かつ使いやすいフォーマットがあります。いえ、「考え方」と言っていいかもしれません。このフォーマットは、海外、特にアメリカでは普通によく使われているのですが、実は日本の会社ではあまり使っている人を見ません。
考えをスッキリさせてくれますので、知っていると役に立ちます。今回はそれをご紹介します。
すぐ通じる、誰もが知る方法
さて、そのフォーマットは「プロ・コン」と言います。英語では「Pros and Cons」です。pro と con は何かの単語の略かな?と思いそうですが、略されたものではなく、そのまま「プロ・コン」が正しい名称です。もともとはラテン語から来ているようです。
アメリカのオフィスでは「プロ・コン 整理してる?」「決断する前に、プロ・コン考えとかないと」などという会話がよくあります。「プロ・コン」を和訳するときは「賛成論・反対論」「肯定・否定」「メリット・デメリット」などと言われます。
つまり、オフィスでは「その物事のメリットとデメリット、ちゃんとわかってから判断している?」ということが、よく話題にのぼるわけですね。
そう言われると、言われたほうは「ちゃんとじっくり考えました!」と主張したり、「いや、待てよ。もう一回きちんと考えてみるか」と思い直してみたりするわけです。
このように、すぐ通じる、誰もが知る「問題の検討方法」なので、日本のオフィスでも共通言語としておくといいのではないかと思います。
簡単・シンプルで客観性を高めてくれる
では、「プロ・コン」とは、どうやるのか、という方法です。これは極めて簡単でシンプルです。ノートやホワイトボードなど、自由に書き込める空間を二つに仕切り、仕切ったそれぞれの上に「pros」「cons」とタイトルを書いておくだけです。場合によっては「メリット・デメリット」というタイトルでもいいでしょう。
あとは、問題にしたがって、思いつくままに書き込むだけです。例えば「マンションを買いたい」と考えたとします。「pros」であると「自由な空間が手に入る」「資産形成になる」「持ち家であると社会的評価が高くなる」…、こんなことが考えられます。では「cons」はどうでしょう。「容易に住まいを変えられなくなる」「大きな負債を背負うことになる」「税務や管理組合などの事務負担が増える」…、こんなことが色々出てくるでしょうか。
このように考えていくと、「うん、やっぱりメリットが多いな」や「いや、デメリットが意外とがあるな」ということが目に見えて理解しやすくなります。
自分の「評価」を淡々と書き連ねていくうちに、感情と理論が分離されやすくなり、より客観的で理性的に物事の両面を比較検討できるようになるからです。
あとは、prosとcons をそれぞれ比べていきます。判断の仕方としては以下のような方法があります。
1. prosとcons(例えばメリットとデメリット)のどちらのほうが多いかで評価する
2. prosとconsで出てきた全ての項目それぞれの重要性を考え、優先すべき項目を検討する。
3. 特にconsで出てきた項目を十分検討し、案件実施の際のリスク予測や対応策策定の材料として使うことで、決定をしやすくする。
「プロ・コン」に限らず、自分の頭の中を書き出し、それをあらためて視覚でとらえる、というやり方は最高の思考整理方法です。それに加えて、「良い・悪い」を判断しながら、頭の中から出力することによって、自分の主観に捉われた一面的な思考ではなく両面から総合的に物事を見ることができる「両面思考」のモードに慣れてくるのです。
「プロ・コン」を使いこなすためのルール
シンプルで簡単、いつでもできる「プロ・コン」ですが、うまく使いこなすためのルールがあります。それは次の3つです。
●書き込みはシンプルな短文のみ
シンプルな短文のみを書き込みましょう。例えばメリットなら「◯◯できる」「利益が手に入る」、デメリットなら「◯◯を失う(可能性が高い)」「時間がかかりすぎる」、など、できるだけシンプルな短文で書き込みます。そうしないと、比較検討・評価が難しくなるからです。
長い文章やプロ・コンどちらのことを言っているかわからない文章は不要です。例えば、「◯◯は△△だが、□□は◯◯かもしれない」などと書いてあっても、すぐに「良い・悪い」とわからず、両面からの比較検討に使えません。
●「思う」は付けてはだめ
「○◯になる」のような断定文で書いてください。「◯◯だと思う」という文は意味がないので、書かないでおきましょう。なぜ意味がないかというと、基本的には人の頭の中の想像範囲で書いているので、その意味では全部が「思う」だからです。
重要なのは、推察できる結果をどんどん書き出していき、自分が見て自分の考えをわかるようにすることです。書き出した後から「本当にこう言えるのだろうか?」と見直すことは思考に利益がありますが、そのような見直しのためにも、シンプルに断定文で書いておきましょう。
●「何にとって・誰にとって」を明確に
誰にとっての良い・悪いか、対象があるなら書いておきましょう。前述のマンション購入でしたら、「自分」にとってのメリット・デメリットがほぼ全部ですが、ビジネスなどの決断をするときは、「チームにとって」「顧客にとって」「会社にとって」「社会にとって」どうかという評価が出てくるのが自然です。しっかり考えるときは、pros と cons それぞれに縦に「チーム」「顧客」「会社」「社会」と割って考えてもいいです。
一人で考えるだけではなくファシリテーションに
「プロ・コン」は、誰でも両面思考がしやすくなるフォーマットですので、一人で考えるときだけではなく、チームで問題を考えるときにも有用です。
「私はこちらがいいと思います」「私の意見はこうです」とそれぞれの意見を聞くだけでは議論が進まない場面もよくあります。そのようなときは、誰かがこう思う、という意見出しではなく、「これを行う場合のメリットは何か」「ではデメリットは」と全員に客観的な評価をさせたほうが議論の材料が多く出てくるでしょう。
また、論点や判断基準をどうするかについて、お互いの意見や視点を認識・共有しやすくなります。一人では意外と考え付かなかったメリットやデメリットなど「こんな視点があったのか」と刺激を受けることも多いものです。
意見が出しやすくなるように、ゲームやレクリエーションのような雰囲気で、一人一個ずつ pros / cons に書き入れていき、それをもとにまとめていく、など、流れを工夫し、皆が考え方に入りやすくするのがコツです。
いかがでしょうか。自分の考えを目で見て評価しやすくする、チームでそれぞれの視点を認識共有し、問題を解決しやすくする、などメリットが多い「プロ・コン」。実を言いますと、この「プロ・コン」は前にご紹介した「ディベート」では議論のための論理構成の準備段階で使われるフォーマットです。ですから、ディベート慣れしている海外エグゼクティブは誰でも知っているのです。
小さなことでも「プロ・コン」式に考えるようにすると、物事をロジカルに考えることが得意となるでしょう。あまり馴染みのなかった方は、ぜひこれから利用してみてください。